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2012年08月09日

いきもの調査の目的と意義

7月16日から18日に,新潟県佐渡市で開催された第2回 生物の多様性を育む農業国際会議(ICEBA2012)に参加してきました.珠洲を早朝に出発し,新潟にお昼到着,フェリーに乗って佐渡へ,7時間の旅は,レンタカーしたトヨタマークXで,市長さんはじめ4人での長旅でもとても快適でした.燃費はリッター11kmくらいでした.

16日は佐渡市のご案内で金山へ,金へのものすごい執念が山すら割ったという,人間の欲望がダイレクトに伝わってくる面白い施設でした.当日外気温34度でしたが,トンネル内は15度,この温度差はなにかに利用できるかもしれませんね.

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17,18日は農業国際会議に参加しました.17日は佐渡市で行われている「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度の農法を実施しているほ場で,「生きもの調査」を行いました.


NPO田んぼの岩淵先生はじめ,東京農大の先生や,地元の農家の方が指導してくださいました.

このほ場では,水田の脇に幅60cm程の溝が掘ってあり,常時水が溜まっています.これは佐渡で「江(え)」と呼ばれているもので,本来棚田などで隣の田んぼや山からの冷たい水が田んぼに直接は入らないためにいったんここに入れたりするためのものだそうです.この江には水生生物やドジョウなど色々な生物が住み着いており,生物多様性の高い水田環境を保ってきました.

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佐渡では,「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度の中で,江の設置を推奨しています.これは,近年行われるようになった夏季の中干し(田んぼの水を抜くこと)によって,田んぼ内の生物が死滅することを避けるためだそうです.

「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度は,佐渡市の生物多様性推進室生物共生推進係が実施しています.制度の詳細はこちら → 佐渡市ホームページ

この水田も,本来の意味での江は必要のない場所ですが,生物を保全する目的で10年ほど前から設置したとのことです.今回はこの江や水田内にどのような生物がいるかをみんなで調査しました.

結果は,というと,あまり生物が多いとは言えない数でしたが,それでも認証制度を実施しているところの方が,ないところよりも多少生物が多かったそうです.
特に多かったのは,外来種であるアメリカザリガニでした.トキや他の鳥類の餌になる事はあるでしょうが,アメリカザリガニが入っていることで水田の他の生物が少なくなっているのではないかと感じました.

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アメリカザリガニは,石川県でも全域に分布しています.珠洲市でも30年以上前に侵入し,今も一部に分布しています.アメリカザリガニが侵入したため池などは水草など本来の植生が失われ,元々いたゲンゴロウなどの水生生物に悪影響を及ぼすと言われています.

佐渡のこの江のような農法を,安易に珠洲市に導入してしまうと,保全したかった生物を逆に減らす原因となってしまうかもしれません.むしろ江など恒常的に水が溜まるエリアは水田内に設けず,夏の中干しの時期に一部の水田には水を張るとかいう工夫のほうが効果を上げそうです.

さて,今回の記事では,いきもの調査の目的と意義と題しました.
最近は全国で田んぼのいきもの調査というものを地域で実施しています.

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一番多いのは,農家や子供たちが「田んぼに入ってたも網を使い,生きものを探す.種類を見分ける.」という作業です.身近な水田に色々な生きものが入ること,水田が支える生物多様性を実感する,という教育的な意義はとても大きいと思います.

気づき,眼差し,思いやりの心など,美しい言葉とともに,この「いきもの調査」は全国で受け入れられています.

今回参加した農業国際会議でも,パネリストからはやはり子どもたちや農家の生きものへの関心や環境配慮型農業への共感を広げるための技法が主なテーマとして語られていました.生きもの調査は環境教育としての機能が最も重要であるかのようでした.

しかし,「調査」といっている割には,データの蓄積や,調査方法の統一ということには余り配慮されていない場合が多いようです.生物多様性の保全には,適切な管理とそのための定期的で手法の統一した調査が不可欠です.「いきもの調査」に生物多様性保全のための水準を持たせることは可能か,つまり専門家以外の方がやる調査でどこまで統一した調査が出来るのか,ということは議論になっています.

以前話題となった仕分け事業でも,田んぼの生きもの調査は議題にあがり,調査なのか啓発活動なのか明確でないという理由で厳しく仕分けされました.

行政刷新会議「事業仕分け」ワーキンググループ A(事業名) 田んぼの生き物調査

調査という言葉を使うことで,発信している側と受け取る側で意味やが異なってしまう.またそのあいまいな状態を放置しつづけていくことで,どんどん目的からずれた形になることを危惧します.
啓発活動であるならば,いきもの調査と呼ばず,いきもの観察会,とすれば良いと思います.

今月の中ごろに交流事業として佐渡から子供たちが能登へ来られるそうです.そこでも生きもの調査をするそうなのですが,主催者にはその目的と意義を明確にして,実りある活動にしていただきたいと思います.

投稿者 赤石大輔 : 2012年08月09日 11:04

この記事へのコメント

赤石さんのおっしゃるとおりです。私も10年以上、生きもの調査を実施してきた中で、生きもの調査が単なるモニタリングではなく活動そのものが持っているパワーの分析をしてきました。詳細はブログに掲載していますが、今年度から呼び方も徐々に変えています。生きもの調査ではなく「田んぼの健康診断」という呼び方にしています。田んぼの生きものの経年変化を見ながら自分たちの住んでいる地域がどちらの方向に向かっているのかを自分たちで実感することです。更に大切なことは健康診断の結果を見て、地域の処方箋をつくることです。変化の原因は田んぼだけでなく、周辺環境にも起因します。それらを自分たちが取り組み可能な処方箋を作り、地域活動として実践することが大切です。ですからそこで生産されたお米の評価ではなく、その田んぼが地域の健康にどのように貢献しているかを皆で確認することが大切です。この活動が広まれば健康診断が周辺の森や海にまで広がり、自分たちの住んでいる地域に誇りが持てるようになるのです。将に農地は公共財産であり、それを健康に良い方法で管理をしている農家には管理料をはらわなければなりません。これは農家だけの問題ではなく、「地域で生きる」ということの本質をどのように考えるかの問題だと思います。ブログにはまだ書き足りない項目が沢山あるので徐々に書いて行きたいと思います。共に頑張りましょう。

投稿者 原 耕造 : 2012年09月18日 12:44

原様
コメントありがとうございます.一昨年の清里田んぼ会議でご一緒させていただきました.お話を伺いたい変感銘を受けました.

石川県でも,ようやく水田の生物多様性に目が向けられるようになりました.世界農業遺産の認定は大きな意味があったと感じています.
しかし,行政含め多くの方が漠然と,いきもの調査という言葉を用いていること,出口が子ども達への自然体験の域をでないことなどを危惧し,今回このような記事を書きました.
またそちらのブログも拝見させていただきます.今後ともどうぞよろしくお願いいたします.

投稿者 akaishi : 2012年09月18日 23:47